今年6月、東京の日本橋兜町で10階建てビル「KITOKI」の完成見学セミナーが開催されました。(主催:(一社)日本木造耐火建築協会、共催:平和不動産㈱、㈱ADX、㈱シェルター)
1階が店舗、2~10階が事務所であり、SRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造+木造のハイブリッド構造で建てられています。
以前は鉄骨やコンクリートだけで建てるのが当たり前だったビルに、木材を活用する事例が年々増えてきました。
高層ビルに木を取り入れるメリットとは?KITOKIの事例を参考に探っていきたいと思います。
どぶろく醸造所、バイオフィリックデザインオフィスのある複合ビル
明治時代に日本初の銀行が設立されるなど、金融市場発祥の地とされる兜町。かつて金融・経済の中心地として栄えていましたが、1999年に株券売買の立会所が閉鎖されてから、徐々ににぎわいが失われていきました。
街の活気を取り戻そうと平和不動産㈱によって「日本橋兜町・茅場町再活性化プロジェクト」がスタートし、その一環として建設されたのがKITOKIです。
SRC造でメガストラクチャーという構造を3層飛ばしでつくり、その内側に木造建築を組み合わせたビルであり、これは日本初の試みです。構造全体の約2/3が木造になっています。1~3階の梁には秋田県産の栗の木を丸太のまま使用するなど、木材をふんだんに使い、都心にありながら自然の温もりを感じられる建築です。
構造ダイアグラム(木造建築+メガストラクチャーのハイブリッド構造)
ビル1階には世界最大規模の酒類コンペティション「IWC(インターナショナルワインチャレンジ)2020」SAKE部門最高賞を獲得した平和酒造が、「平和どぶろく兜町醸造所」をオープン。日本酒の原型であるどぶろくをカジュアルに楽しめます。
ビル内のオフィスはバイオフィリックデザイン(人は自然に惹きつけられるという考えに基づいたデザイン)で、風・水・木を感じながら心地よく働ける環境が整っています。
緑がやすらぎを与えるバイオフィリックデザインのオフィス
高層ビルに木を取り入れるメリット
ビルに木造を組み合わせるメリットとして、セミナーでは特に次の3点が挙げられました。
①建物が軽量化できる
木は鉄やコンクリートより軽いため、木造の割合が多いほど建物全体を軽くでき、地震力や地盤への負担を軽減できます。
②将来的な増改築がしやすい
SRC造で建てた場合、後から間取りを変更するのは大変ですが、木造であれば比較的コストをかけずに増改築が可能です。木造部分を増築・減築することで、将来的に間取りを変えたり、吹き抜けをつくったり、使い方に合わせたリフォームができます。
③建設時に排出するCO₂を削減
建築をつくる際の環境負荷のうち、55%が建設時に排出されると言われています。コンクリートや鉄は製造時にCO₂を排出し、木は成長時にCO₂を吸収しているため、木材を使うことでCO₂排出を削減できます。
試算によると、同じビルを木造を使わずに建設した場合に比べて、KITOKIは排出されるCO₂を約27%も削減しています。
この他にも、木の空間には人をリラックスさせる温もりがあり、断熱性・調湿効果による快適さ、居心地の良さといったメリットもあります。
完成見学会セミナーの様子
KITOKIは木造ビルでよく心配される「耐震性・耐久性」をSRC造が担うことで、安全性・合理性を確保しつつ、木材の良さを活かしています。また、もう一つの課題である「耐火性」については木質耐火部材COOL WOODを採用し、木造らしい温もりはそのままに安全性をクリアしました。
6/10、11に開催された完成見学セミナーの参加者は500名を超え、木造ビルへの関心の高さがうかがえました。
これからの都市には画一的なビルではなく、街の個性を取り入れた木の温もりあるビルが建つようになっていくかもしれません。KITOKIはそんな可能性を感じさせるプロジェクトです。
Data
所在地 /東京都中央区日本橋兜町8番5号
建築主 /平和不動産
設計施工/ADX
構 造/NAWAKENJI-M
木造施工/シェルター
主要用途/事務所、店舗
敷地面積/142.16㎡
建築面積/106.94㎡
延床面積/738.75㎡
最高高さ/34.47m
竣 工/2022年4月
※国土交通省令和2年度サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)採択
※DBJ Green Building 認証(プラン認証)取得